不整脈③ 発作性上室性頻拍 心房頻拍


不整脈3回目は発作性上室性頻拍、心房頻拍です。

発作性上室性頻拍 PSVT SVT

発作性上室性頻拍 PSVT SVT paroxysmal supraventricular tachycardiaの分類
1.房室回帰性頻拍 AVRT atrioventricular reciprocating tachycardia
2.房室結節リエントリー性頻拍 AVNRT atrioventricular nodal reentrant tachycardia
3.洞結節リエントリー性頻拍 SNRT sinus nodal reentrant tachycardia
4.心房頻拍(異所性心房頻拍) AT atrial tachycardia
5.心房内リエントリー性頻拍(心房内リエントリー) IART intraatrial reentrant tachycardia

PSVTの割合AVRT約40%、AVNRT約50%、AT約10% SNRTまれ
ATとPSVTは区別されることも多い。

心房内や房室接合部で約150~200/分で刺激が発生。
原因の多くはリエントリー。

鑑別:ST、AFLなど

PSVTの特効薬:
アデノシン三リン酸 ATP(一般名:アデホス-Lコーワ アデホス)…静注のみ
ベラパミル(一般名ワソラン)…静注or内服
アデホスもワソランも房室結節での電気の流れを遮断します

※PSVTとSTのHRでの鑑別方法
PSVT…目安 HR150~200/分 ST…目安 HR100~180/分
STのHRは220-年齢/分以下のことが多い。

※PSVTとAT、AFLの鑑別方法
アデノシン三リン酸 ATP(一般名:アデホス-Lコーワ アデホス)の静注を行います
ATPを静注すると10秒ほど房室結節での電気の流れを遮断します(房室ブロックとなります)
◦PSVTでは頻拍が停止します
◦それ以外では頻拍は停止せず、P波やF波になります
P波→AT
F波→AFL
ATP静注により上記の頻拍の鑑別ができ、かつPSVTでは治療になります

房室回帰性頻拍 AVRT

房室回帰性頻拍 AVRT atrioventricular reciprocating tachycardia

Kent束・心房・房室結節・心室の旋回経路があり頻拍発作を生じます。

ORT orthodromic AVRT 順方向性(正方向性) AVRT

AVRTの約90%が順方向性AVRTです。
刺激は房室結節を順方向(心房→心室方向)に伝わり、Kent束を逆方向(心室→心房方向)に伝わります。

心電図所見:
①HRは約150~200/分
②narrow QRS regular tachycardia
③ⅡⅢaVF誘導で逆行性P波(陰性P波)をQRSの直後認める ※逆行性P波と判断しづらいものも多い
④RR間隔は一定

原因:Kent束(WPW症候群)

鑑別:AVNRT、ST、AT、AFL

治療:カテーテルアブレーション、薬剤

ART antidromic(anti-dromic)AVRT 逆方向性 AVRT

AVRTの約10%が逆方向性AVRTです。
順方向性と逆に刺激が伝わります。

心電図所見:
①HRは約150~200/分
wide QRS regular tachycardia
③デルタ波を生じる
④RR間隔は一定

原因:Kent束(WPW症候群)

鑑別:AVNRT、ST、AT、AFL

治療:カテーテルアブレーション、薬剤

房室結節リエントリー性頻拍 AVNRT

房室結節リエントリー性頻拍 AVNRT atrioventricular nodal reentrant tachycardia

約80%はcommon type(通常型)、約20%はuncommon type(非通常型)

ⅰ)common type(通常型) AVNRT (slow/fast)

slow pathwayを順行性に、fast pathwayを逆行性に伝導します
突然発症し、突然停止します

心電図所見:
①HRは約150~200/分
②narrow QRS regular tachycardia
③short RP’ tachycardia(P’R>RP’)
Ⅱ、Ⅲ、aVFで異所性P波(P´波)は
約半数でQRSに重なりはっきりしない。
約半数で偽性s波としてみられる。
まれに偽性q波としてみられることがある。
V1で偽性r´波としてみられる。

ⅱ) uncommon type(非通常型) AVNRT (fast/slow)

心電図所見:
①narrow QRS regular tachycardia
②異所性P波(P´波)はlong RP´ tachycardia(P´R<RP´)

ⅲ) uncommon type(非通常型) AVNRT (slow/slow)

心電図所見:
①narrow QRS regular tachycardia
②異所性P波(P´波)はshort RP´ tachycardia(P´R>RP´)

原因:房室結節二重伝導路(遅伝導路-速伝導路間のリエントリー)による

鑑別:AVRT、ST、AT、AFL

治療:カテーテルアブレーション(根治率は95%以上)

☆房室回帰性頻拍AVRTと房室結節リエントリー性頻拍AVNRTとの鑑別方法!
ORTはⅡ、Ⅲ、aVF誘導でQRSの直後にP´波(陰性P波)がみられます
ARTはwide QRSでデルタ波が見られます
common type AVNRTはⅡ、Ⅲ、aVF誘導で①P´波がQRSと重なり見えない場合(多い)、②偽性q波が出る場合(まれ)、③偽性s波が出る場合、V1で偽性r´波が出る場合があります。
uncommon type AVNRT(まれ)はT波の後にP´波(陰性P波)を生じ、longRP´ tachycardiaの形態になります。
AVRTはaVRでSTが上昇しやすい。※覚え方 AVRTはaVRでST上昇!←AVRが共通!
※覚え方としては房室結節リエントリー性頻拍AVNRTは病名長い!よく分からない!P波ない!

洞結節リエントリー性頻拍 SNRT

洞結節リエントリー性頻拍 SNRT sinus nodal reentrant tachycardia

ATに含める場合あり! まれな疾患
突然発症し、突然消失する

心電図所見:
①HR100~150/分
②RR間隔は一定
③異所性P波(P´波)は洞調律のP波と同一=P波は正常
④P´R時間はさまざま

原因:洞結節と周囲の心房筋の間でのリエントリー、心臓手術後など

鑑別:洞性頻脈、2:1伝導性のAFL、AT

心室内変行伝導を伴うPSVT
平常時に伝導障害(脚ブロック)がなくても頻拍により不応期の関係で心室内変行伝導(右脚ブロック型、左脚ブロック型)となることがあります。
右脚ブロック、右軸偏位(下方軸)になりやすい。これは右脚の不応期が左脚より長いためで機能的ブロックといいます。病的意義はありません。

脚ブロックを伴うPSVT  wide QRS

右脚(左脚)ブロックにPSVTが合併したもの
3.5mm(0.14秒)以上のwide QRS regular tachycardiaであり、心室内変行伝導を伴うPSVTやVTとの鑑別が必要。
頻拍となり、右脚or左脚の不応期よりも頻拍周期が短くなると、それぞれ右脚ブロック、左脚ブロックとなります。右脚の不応期は長いため右脚ブロック型が多い。

鑑別:VT (VTと脚ブロックを伴うPSVTとの鑑別は困難なことがあります。)

治療:迷走神経刺激、ATP(アデノシン三リン酸)5~20mg静注。鑑別が困難な場合は直流通電を行います。

心房頻拍(AT atrial tachycardia)と房室接合部頻拍(JT junctional tachycardia)
心房頻拍(AT)…心房で刺激が発生します
房室接合部頻拍(JT)…房室接合部(主にHis束)で刺激が発生します
ATとJTの鑑別にはP波の形やPR時間を見ます。

PSVTとVTの鑑別方法

◦QRS幅 QRS幅が0.16秒以上ならばほぼVT
◦房室解離 R rate<P rateなら房室解離でありVT
◦心室捕捉(捕捉収縮) (ventricular) capture beat wideQRSの間に洞性のP-QRSがあればVT
◦融合収縮 洞性のP-QRSとVT波形の融合がみられたらVTです (心室捕捉と似ている)
◦左軸偏位(-30°~-90°)、高度の軸偏位(-90°~-180°)であればVTの可能性が高い
◦脚ブロックの形 通常の脚ブロック波形と違い変形していたらVTの可能性が高い
◦V1での下りカーブ 左脚ブロック型の場合、r波からS波への下りカーブが緩やかであるとVTの可能性が高い
◦洞調律時の波形
右脚ブロック型や左脚ブロック型となりQRSの立ち上がりは鋭い。一方でVTの多くはQRSの立ち上がりは鋭くないです。
右脚ブロック型は鋭いR波があるため上室性と診断しやすい。左脚ブロック型はwide QRS となります。
(V1、V6で脚ブロックの形が崩れているならVTの可能性が高い ←PSVTでは典型的な脚ブロックの形になります)
房室解離や心室捕捉があればVTと診断できます。P波があれば房室解離があります。
血行動態が保たれたwide QRSの頻拍にはATPを投与します。ATP投与により洞調律になれば上室性と判定できます。

心房頻拍 AT PAT

心房頻拍 AT atrial tachycardia=発作性心房頻拍 PAT paroxysmal atrial tachycardia

広義のAT=の狭義のAT異所性自動能亢進+心房内リエントリー性頻拍
1)単源性心房頻拍、多源性心房頻拍 MAT multifocal atrial tachycardia
2)房室伝導比一定のAT、房室伝導比不定のAT
心房で異所性刺激が発生し頻拍となります。
心房拍数100~250/分、HR100~200/分
⇐明らかな粗動波があっても粗動波数が250/分未満ならATになります
HRが80~90/分になることもあります。
刺激発生部位が洞結節に近い場合、洞性頻脈 や洞調律 と紛らわしい。
ATとSTの鑑別方法はP波の形の違いを見ること。発作時のホルター心電図や12誘導心電図を詳細に見ないと分かりません。ATと診断されず心療内科に紹介されることもあります。

心電図所見:
①洞調律と異なる形のP´波(異所性P波)が出現
②QRS数<P´波数
③P´R時間は計測不能のことが多い
④RR間隔は一定or不定
narrow QRS regular tachycardiaとnarrow QRS irregular tachycardiaがある
⑤QRS幅<0.10秒
※多源性心房調律や多源性心房性期外収縮3連発以上がHR100/分以上になるとMATとなります!

鑑別 SR、ST、AFL、AF

治療 薬剤(自動能の亢進によるAT→β遮断薬、リエントリーによるAT→Ⅰa群やⅠc群)、カテーテルアブレーション(根治率90%以上)。

PAT(AT) with block
⇒房室ブロックを伴ったPAT(AT)
心房拍数が多くなると(例 心房拍数200/分以上)、刺激が全て心室に伝わらず房室ブロックを生じます。伝導比は様々。ジギタリス中毒でみられやすい。

2:1伝導のAT
⇒2:1房室ブロックを伴ったAT
例えばP波が180/分、QRSが90/分出現するものをいいます。
鑑別 ST、AFL、AF、2:1AVB

多源性心房頻拍 MAT

多源性心房頻拍 MAT multifocal atrial tachycardia

心房内の複数で異所性自動能の亢進が起こります。
発症の背景に慢性肺疾患などがあります。

心電図所見:
①3種類以上のP波がある
②RR間隔は不整
COPDなどの肺疾患が基礎にあることが多い

治療:カテーテルアブレーション、薬物治療(主にβ遮断薬、Ca拮抗薬)
※移動性心房ペースメーカーが頻拍になるとMATになります!

心房内リエントリー性頻拍(心房内リエントリー)

※ATとする考えもあります
◦不規則な調律+narrow QRSとなる疾患の鑑別方法
洞不整脈、AF、房室伝導が変化するAFL、MAT
→鑑別方法 AFLはF波がある。MATは様々なP波があります。

房室接合部頻拍 JT junctional tachycardia
まれな疾患
鑑別:AVNRT、ST

皆さん、今日もお疲れ様でした。

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