※プロモーションを含みます
8回目はQRS、R波、心室肥大、S波です。
QRS
QRSは、心室の脱分極(興奮)を表します。
P波に続く最初の陰性波がQ波、次の陽性波がR波、次の陰性波がS波です。
QRSはQ波の始まりからS波の終わりまでを指します。
正常値:QRS幅<0.10秒
波形の表記法
一般的に振幅が3mm(0.3mv)以下の場合は、小文字のq、r、sを使用します。
同じ波が複数回出現した場合、2つ目以降には「´(ダッシュ)」を重ねていきます。
心室内変行伝導
心室内変行伝導とは、上室から心室に電気的刺激が到達した際、心室の刺激伝導系が先行する心周期の興奮から覚めきらず不応期にある状態を指します。心室内刺激伝播が遅延し、伝導が変行します。
通常、右脚ブロック型になることが多い。理由は不応期の長さが左室<右室であるため。
心室内伝導障害
QRS幅が0.12秒以上であり、通常の脚ブロックに該当しないものを指します。
心室の興奮(脱分極)とQRSの関係
①最初に心室中隔が左→右へ興奮します
■部分。V1-V2誘導では興奮が近づくので上向きの小さなr波になります。V4-V6では遠ざかるので下向きの小さなq波になります。V3では興奮は平行方向に進むので振幅に変化はありません。
②次に心室中隔が右→左へ興奮します
■部分。弱い興奮なので、心電図にはほとんど影響しません。V1-V2、V5-V6では①と逆向きのノッチ程度です。
③右室と左室が内→外へ興奮します
■部分。V1-V6の全てで興奮が向かってくるので上向きの波になります。
④左室は右室の2~3倍の厚さのため、右室が興奮を終えても、左室はまだ興奮しています
■部分。この興奮はV1-V3では遠ざかるので下向の波、V4-V6では近づくので上向きの波になります。
⑤左室の側壁と後壁、右室の一部が興奮します
■部分。
⑥最後に心室の上方が興奮します
■部分。
心室興奮時間 VAT(ventricular activation time)
VATは、電気的興奮が心筋の内膜から外膜に伝わる時間を示します。
心電図ではQ波の始まりからR波の頂点までの時間を指します。
通常はV1-V2で0.02~0.03秒。
幅広いQRS
0.10秒<QRS
正確な測定にはQRSの始めと終わり(J点)を正しく認識することが重要です。
wide QRSの鑑別診断
↓
洞調律時
WPW症候群、左室肥大、脚ブロック、(非特異的)心室内伝導障害、単発ならPVC
↓
非洞調律時
心室固有調律
R波
P波の次に現れる陽性波。R波(QRS)は心室筋の脱分極を表します。
正常R波
心電図所見:
V1でR波<S波 RV1<0.7mv(右室高電位ではない)
RV5(RV6)≦2.6mv、SV1+RV5≦3.5mv(左室高電位ではない)
正常なR波の増高 r progression
V1はR波<S波で、V2、V3に進むにつれてR波は大きくなります。通常、V3-V4でR=Sとなります。このR波の増高をr progressionといい、これは正常の所見です。(正確にはR波の増高ではなく、R/S比の増加を指します。)
低いR波
胸部誘導のR波増高不良 poor r (wave) progression PRWP
V1~V3でR波≦0.3mv (V3でR波≦0.3mv)
移行帯はV4~V6または移行帯なし。
poor r (wave) progressionになる疾患・病態:
健常人、肥満、前壁中隔梗塞、心嚢液貯留、左室肥大、左脚ブロック、急性肺性心(PE)、肺気腫、電極のズレ
reversed r (wave) progression RRWP
V1→V2→V3と進むにつれR波が小さくなります。R/S比も減少します。(異常Q波とほぼ同じ病態。)
移行帯はなし、または正常。
約80%で前壁中隔梗塞がみられます。
reversed r (wave) progressionになる疾患・病態:
約80%で前壁中隔梗塞
その他の原因として心筋症
低電位 low voltage
心電図所見:
肢誘導:QRSの振幅≦5mm(0.5mv)
胸部誘導:QRSの振幅≦10mm(1.0mv)
原因:心起電力の低下、心臓周囲に病的な水がある、心臓から体表までの距離が増えるなど。
低電位(差)になる疾患・病態:
心嚢液貯留、心筋症、心膜炎、胸水、COPD、気胸、広範な陳旧性心筋梗塞、アミドイドーシス、肥満、健常人でもみられることがある
高いR波
右室肥大 right ventricular hypertrophy
心電図所見:
①V1で S<R、0.7mv≦RV1、ストレイン型ST-T変化
②Ⅰ、aVL、V5、V6でR<S 深いS波
③右軸偏位(もしくは正常軸)
④右房拡大=肺性P波(通常、右室の負荷時は右房にも負荷あり)
⑤0.04秒<VAT
右室肥大になる疾患・病態:PS、MS、TR、ASD、VSD、Fallot四徴症、慢性肺性心(肺性心)
右室肥大の鑑別(心電図上) 後壁梗塞、WPW症候群(A型)、右脚ブロック、心筋症
右室拡大
心電図所見:
右室肥大の波形とほぼ同じ。
V1、V2でrsR´波形が見られやすい。
※一般的に、右室拡大は右室肥大に含まれる。
左室高電位
心電図所見:
2.6mv<RV5(RV6) or 3.5mv<SV1+RV5(RV6) ※aVLで1.1mv<Rという基準もあり
左室肥大 left ventricular hypertrophy
心電図所見:
左室高電位に加え以下をみとめる(全て満たさなくても良い)
①V5、V6でST-T低下、陰性T波 ※ストレイン型ST-T変化でなくても可
②wide QRS 心室興奮時間(VAT ventricular activation time)の延長
左軸偏位や移行帯がV5、V6
左室高電位、左室肥大になる疾患・病態:
心筋症、AS、AR、MR、VSD、PDA(動脈管開存症)、高血圧
左室肥大の鑑別(心電図上) 左脚ブロック、WPW症候群(B、C型)
心室肥大の心電図基準は結構あいまい。心室肥大が疑われれば心エコーで確認します。
〈両室肥大はまれな病態なので省略します。〉
左室拡大
心電図所見:
①左室高電位
②V5、V6でT波の増高、ST上昇、q波(中隔ベクトル)が深くなる
左室拡大になる疾患・病態:
AR、MR、ASD、PDA(動脈管開存症)
※通常、左室肥大と左室拡大の診断には心エコーも行われます。
ER心電図基本編の選択肢と解答を作り、noteにまとめました。
下記から是非、見にきてくださいね。
S波
S波
SⅠSⅡSⅢ症候群 S1S2S3 症候群
ⅠⅡⅢ誘導に深いS波を有する状態です。
原因としてCOPD、肺塞栓、右室肥大、前壁梗塞、気胸など、健常人でもみられます。
ⅠⅡⅢ誘導の全てでR波≦S波の場合、QRS電気軸は北西軸となります。
SⅠQⅢTⅢ
Ⅰ誘導にS波、Ⅲ誘導にQ波と陰性T波を認めます。
SⅠQⅢTⅢとなる疾患・病態:肺塞栓症(急性肺性心)、慢性肺性心=肺性心、右室肥大、肺高血圧
鑑別:
肺塞栓症(急性肺性心)と慢性肺性心
肺塞栓症はSⅠQⅢTⅢ+V1~V3に陰性T波
慢性肺性心はSⅠQⅢTⅢに加え、V1で高いR波とストレイン型ST-T変化
※一般的に肺塞栓症は右室肥大(-)、慢性肺性心は右室肥大(+)
今後も、皆さんと楽しく心電図を学べたらと思います。
コメント